警備員なんてやってると、ときどき、
「一日中ずーっと突っ立って…退屈でしょう?」
と言われることがある。
たぶん端から見るとそう見えるのだろう。
 実は…そーなんです!退屈なんです。
殊に今日のような人通りの少ない歩行者通路で歩行者誘導なんてやってると…本当に、意識が宇宙空間をワープしてガミラス星雲イスカンダルのスターシアの王宮まですっ飛んでいってしまいそうなほど退屈だ。

今日の現場は歩行者通路とは言っても、朝8時から 夕方5時までせいぜい30人くらいしか通らないような場所だった。
しかも今年に入って最激な勢いのどしゃぶり…これこそ、本当に猫と犬が雨と一緒に落ちてくるのではないかと思うほどの、原尻の滝(大分県緒方町)のようなどしゃぶりだった。
…でも殆ど濡れることはありませんでした。
 何を隠そう、今日僕が居た場所は真上に雨をしのげる巨大な物体があったのだった。

 現在、福岡では都市高速道路の新線の延長計画があり、博多区月隈付近から西に伸びているのだが、諸岡〜井尻〜的場〜野多目〜屋形原〜桧原〜片江〜七隈〜野芥〜外環状線へと繋がる計画があり、着々と工事が進んでいる。
 
 そうなんです。今日、僕の頭上には、現在建築中の十数メートル幅の都市高速道路があったので、殆ど雨に濡れることはありませんでした。

 当然都市高速道路の周囲は高いフェンスによって工事地域が規定されていて一般の交通は遮断されている。
 しかし、脇道もあるのに約200メートルにも渡って通行止めにするわけにはいかない。従って、工事区間のちょうど中ほどに、歩行者通路が設けられている。
工事区間内は大型の工事車両が頻繁に行き来するので、歩行者が通行する際に歩行者の安全に配慮せねばならず、その為の歩行者誘導である。

…でも、本当に退屈だ。

 著しく退屈な現場では、退屈な時間を埋めるために様々なことをして紛らわす。いつもよくやっているのが、イヤホンでラジオを聞くこと。
番組によって時計を見なくても現在時間がある程度予測できて便利だったりするし、番組によっては聴取者からの意見を募集したりするのにケータイのメールを利用して投稿したりもする。
 また、いつも胸ポケットに手帳とペンを入れているので作詞したりすることもある。
 何もないときはひたすら歌っていたりもする。
 アニメソングオンパレード、TVテーマ曲オンパレードは比較的よく歌う。
あと、歌手ごとにチャゲ&飛鳥メドレー、松山千春メドレー、安全地帯メドレー、シャ乱Qメドレー、サザンメドレー、スピッツメドレー、などなど様々な曲を絶え間なく歌ったりもする。

 また、『外郎売り』を暗証したもする。
『外郎売り』は歌舞伎の17代目市川団十郎の得意演目で、その中で外郎を売るための口上がある。
この口上は途中に多くの早口言葉が織り込まれているので、演劇やアナウンサーなど話し方、発声の
特訓のための課題としてよく利用されている。
 以前、地元の劇団で芝居をしていたことがあり、そのときに活舌の練習として暗証できるようにとプリントを渡され、団員みんな一生懸命に覚えたものだった。僕も仕事や通常の稽古などの合間に覚えたので完全に暗記するまで約2ヶ月ほど要した。
お陰で、現在でも全く忘れてはおらず、


 拙者、親方と申すは、お立会いのうちにご存知の方もござりましょうが、お江戸を発って二十里上方、相州小田原一色町をお過ぎなされて青物町を上りへお出でなさるれば、欄干橋虎屋藤衛門、只今は剃髪致して円斉と名乗りまする。
元朝より大晦日まで、お手に入れますこの薬は、昔、珍の国の唐人、外郎という人わが朝に来たり。帝へ参内の折からこの薬を深く込め置き、用ゆるときは一粒ずつ冠の隙間より取り出だす。よってその名を帝より、とうちんこうと賜る。すなわち文字には、頂き、透く、香(にお)いと書いて、とうんこうと申す。只今はこの薬、殊の外世情に広まり、方々に偽看板を出だし、イヤ小田原の、灰俵の、さん俵の炭俵のと、色々に申せども、ひらがなを以って「ういろう」と記せしは親方円斉ばかり。…… 


と続いて行くのだが、この暗唱の方法は二通りある。
ただ、すらすらと立て板に水という感じで、一定のリズムで早口で言っていく方法と、あくまでも歌舞伎の口上として、自ら外郎を売るかのように、感情を込め、間合いなども考えながら言う方法である。前者は約3分30秒、後者はほぼ5分間で最後まで暗唱し終わる。
だから後者の方法で暗唱すれば、6回繰り返せば30分、12回で1時間である。まぁさすがにそこまで繰り返すことはないが…。

 この『外郎売り』の早口言葉の中で今でも苦手なのが、「京の生鱈、奈良生まな鰹」と「お茶立ちょ茶立ちょ、ちゃっと立ちゃ、茶立ちょ青竹茶せんでお茶ちゃっと立ちゃ」である。未だに時々カんでしまうことがある。

 演劇経験については、またいつか触れるとして、今回は『外郎売り』についてのみ話題とする。

 …んで、仕事中、よくこれを口に出してボソボソ声を発しているのたが、時々、作業員などが通りかかったとき、「ナンだコイツ?何言ってるんだろう?」といったふうに怪訝そうな視線を向けられることがある。

 よく他人から、「変わっている」と言われることがあるが、
 やっぱり、僕ってヘンでしょーか?

コメント